「立ち別れ いなばの山の みねにおふる
まつとし聞かば 今帰り来む」
さて、冒頭の歌ですが、現代語訳はざっとこんな感じ。
どうやら、単身赴任する行平の帰りを待つ奥様に贈られた歌のようです。
このエピソードについて、史実に合っているのかは不明ですが、とても好きなお話があります。
それが、こちら↓
杉田圭さんが描いていらっしゃる、「うた恋い。」シリーズです^ ^
冒頭の歌が出てくるのが、この「うた恋い。2」。
ちなみに、小野小町の歌で有名なものですと、
「花の色は 移りにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせし間に」
(「庭の花が長く続く雨に打たれてすっかり色褪せてしまった。同じように、私のこの美しさも過ぎ行く日々の中ですっかり衰えてしまった」※アバウトな訳です)
がやはり女性としてはぐっとくる歌ではないでしょうか。
と、小野小町の歌は置いておきまして(笑)
注目したいのは、この漫画の中に出てくる在原行平とその奥様の会話です。
※ここから先は、漫画のネタバレがありますので、お気をつけください。
異母弟の業平がいつものようにその妻に対し粗相をした知らせを受けた行平は、奥様に「これから業平の所へ行って叱ってくる」と言います。
その行平に対し、奥様は
「そういうお話を聞くと、自分の男運の良さを噛み締めてしまいますわ」
と返します。
そこへ行平は、「私たちの仲が円満なのは互いの努力があるからだ。弟夫婦に足りないのは運ではなく、夫婦であるための努力や思いやりだよ」と言うのですが、
さらに奥様は答えます。
「それはもちろん。でもやはり、互いを思いやれる相手と出会えたわたくしは、運が良いのです」。
この奥様は、因幡の国へ行ってしまう行平に対し、ちらりとも寂しさを顔に出さず「昇進の早い誠実な夫を持って幸せ。会えない距離に想いを募らせるのもたまにはいいものだから」だと笑顔で送り出そうとします。
そんな奥様に、真面目な行平は「無理をさせているのでは」と悶々します。
行平の出がけ、
「気遣いはありがたい。でも、どうか心配せずに仕事に精一杯励んでください。何があってもあなたを支えると、そう決めてわたしはあなたに嫁いだのですから」と声をかけます。
それを聞いて「君は強い」と返す夫に、
「わたくしが強くあれるのは、あなたという方がいるからです。わたくしが呼べば、あなたはすぐに来てくれるのでしょう?それが分かっているから、わたくしは怖いことなど何もないのです」と言って、笑顔で行平を送り出します。
そんな奥様に行平が贈ったのが、冒頭の歌だと、漫画の中ではされています。
ちなみに、漫画の中の超訳は、
「私は行かなくちゃ。でも君が呼べば必ず帰ってくる。必ず」
という素敵な現代語訳が付けられています。
ちょっとした不安から、相手と喧嘩になってしまうことなんてどこにでもあるお話です。
私もその"よくあるお話"のキャラクターの一人でした。
些細なことで、いじけたり、むくれたり。
「恋人の前では小学生か!」と突っ込まれても仕方ないほどに(笑)
そういうことって、積み重なると、取り返しがつかなくなるほど大きな重石になって、
やがて自分も相手も息ができなくなるくらい苦しく押しつぶされてしまうものなのだと、身をもって知ったことがありました。
行平のいう、"思いやり"や"努力"って、最近結婚についての記事や話の中でよく聞く言葉ですが、
私は行平の奥様の「そういう努力のできる人に出会えたことがラッキーだ」という言葉にも一理あると思うんです。
人は、本当に大きなキッカケ(外的な要因)か、並みでない努力(内的なもの)が無い限り、簡単には変われないものだと思います。
逆に、きっかけさえあれば周りが驚くほどガラリと変われる。
そういう意味で、私は奥様の言葉にも頷けるんです。
この二人、とても理想の夫婦です。
理想なだけに、なかなか見かけない夫婦ですが(笑)
特に奥様は、私のなりたい奥さん像にとても近いです。
今年の抱負である"いい人になる"の理想像の一つ。
何かで迷ったときは、このストーリーを読むようにしています。
こんな奥さん像+自分らしさのある大人の女性になりたいです。
「君がため をしからざりし 命さへ
ながくもがなと 思ひけるかな」
(「君のためなら命すら惜しくもないと思っていたんだ。でも、君に会って想いを遂げた今、君のためにこの先も永く生き続けようと思ってる」)
でした。
切ない(/ _ ; )
20代後半になった今、もう一度小倉百人一首を読み返してみようかなと思っています。
日本人らしい心を、日本人的な言葉で表現している和歌。
本当に大好きです。
Haruka.